美容ジャンルの記事を書くとき、「この表現は大丈夫かな…」と手が止まる瞬間は少なくありません。
とくに薬機法は、単なるルールというよりも“文章のトーンそのもの”に影響する法律です。
基本的な考え方を理解しておくと、毎回悩みすぎることなく、安心して執筆できるようになります。
この記事では、美容ライターが実務で使いやすい形で「薬機法の禁止表現」を整理しました。
専門用語に寄りすぎず、具体例や言い換えの考え方を中心に解説していきます。
1. 薬機法の禁止表現とは?まず知っておきたい基本ルール
薬機法は、美容ライターにとって避けて通れない法律のひとつです。まずは「なぜ規制があるのか」「どんな考え方がベースになっているのか」を押さえておきましょう。
(1)薬機法とは何のための法律?
薬機法(医薬品医療機器等法)は、医薬品や化粧品、医療機器などの品質や安全性を守るための法律です。広告表現においては、読み手が実際以上の効果を期待してしまわないよう、誤解を招く表現を防ぐ役割を持っています。
美容記事では、「効く」「改善する」「治る」といった言葉が、医薬品的な効能を連想させやすいため注意が必要です。
(2)広告で気をつけるべき3つのポイント
美容ライターがとくに意識したいポイントは、次の3つです。
- 医薬品的な効果を連想させないこと
- 効果を断定しないこと
- 読者に過度な期待を持たせないこと
これらは単独で見るのではなく、文章全体の流れの中で総合的に判断されます。
(3)「効果を断定しない」ことが基本姿勢になる理由
化粧品には、法律で定められた効能の範囲があります。この範囲を超えてしまうと、「治す」「改善する」といった医薬品のような効果があると誤認されやすくなります。
そのため美容記事では、「どう作用するか」ではなく、「どんな目的で使われるか」「どんなケアとして取り入れられるか」という視点で表現することが基本になります。
2. 化粧品で認められる表現・禁止される表現
薬機法を理解するうえで欠かせないのが、化粧品に認められている効能範囲です。ここを押さえることで、NG表現の境界線が見えやすくなります。
(1)化粧品の効能範囲とは
化粧品は、「人の身体を清潔にする」「容貌を整える」「肌をすこやかに保つ」といった目的で使われるものです。代表的には、次のような表現が認められています。
- 肌をすこやかに保つ
- 乾燥を防ぐ
- 肌を整える
あくまで“状態を整える・保つ”という表現が中心になります。
(2)NGになる代表的な禁止表現
次のような表現は、医薬品的な効能を連想させるため、原則としてNGと考えられます。
- シミが消える
- ニキビを治す
- ほうれい線が改善する
- 毛穴がなくなる
結果を言い切る表現ほど、禁止表現になりやすい点が特徴です。
(3)グレーになりがちな表現の特徴
一見やわらかく見えても、次のような表現は注意が必要です。
- 「シミが薄くなる」など結果を想像させる表現
- 数字で効果を強調する表現
- ビフォーアフターで強い変化を示す表現
断定していなくても、読み手が効果を確信してしまう場合はグレーゾーンに入りやすくなります。
3. 美容ライターが避けたいNG表現|ジャンル別一覧
ここでは、実務で特に迷いやすいNG表現をジャンル別に一覧化しました。執筆中や入稿前のチェック用として、そのまま使える形にしています。
NG表現一覧|早見表
| 分類 | NGになりやすい表現例 | なぜNGになりやすいか | 言い換えの方向性 |
|---|---|---|---|
| 効果の断定 | 必ず効く/確実に改善する | 効果を保証しているように読める | 使用目的・ケアの位置づけに置き換える |
| 医薬品的効能 | ニキビを治す/肌荒れを治療する | 医薬品の効能を連想させる | 肌をすこやかに保つ表現へ |
| 結果の強調 | シミが消える/毛穴がなくなる | 結果を断言している | 悩みに寄り添うケア表現にする |
| 数値表現 | 〇日で改善/満足度98% | 効果を裏付ける根拠が不明確 | 数字を使わず傾向として表す |
| Before/After | 写真で明確な変化を提示 | 効果保証と誤認されやすい | 使用感・プロセスの説明にとどめる |
| 権威づけ | 医師が効果を認めた | 専門家のお墨付きと誤認される | 監修・コメントの事実関係を明確に |
(1)効果を断定する表現
- 必ず〜になる
- 劇的に変わる
これらは、個人差を考慮していない表現として、特に指摘されやすいポイントです。
(2)医薬品的効能を連想させる表現
- 肌荒れを抑える
- 治す
症状を改善・治療するニュアンスが含まれると、医薬品的表現と判断されやすくなります。
(3)ビフォーアフター・体験談でNGになりやすい表現
- Before/Afterで効果が保証されているように見える構成
- 「これでニキビが治りました」といった断定的な体験談
体験談であっても、効果を断定する書き方は避ける必要があります。
(4)専門家・権威を誤認させる表現
- 医師が効果を認めた
権威性を過度に強調すると、読者に誤解を与える可能性があります。
4. 言い換えで守る。薬機法に配慮したOK表現の考え方
禁止表現を避けるだけでなく、「どう言い換えるか」を知っておくと、執筆が格段にラクになります。
(1)「断定を避ける」ための言い換えの基本
- NG:シミを消す
OK:美白有効成分がシミを予防する。(※メラニンの生成を抑えシミ・そばかすを防ぐ) - NG:ほうれい線を改善
OK:乾燥によるハリ不足にアプローチする
(2)化粧品の効能に近づける書き方
- NG:ニキビを治す
OK:肌をすこやかに整える
(3)ぼかしすぎず、読みやすさを保つコツ
言い換えでは、次の2点を意識すると読みやすさを保てます。
- どの悩みに向けたケアなのか
- どんな使い方・シーンを想定しているのか
5. 実務で迷いやすい表現の判断基準とチェック方法
薬機法を理解していても、実務では「これはOK?それともNG?」と判断に迷う場面が出てきます。ここでは、5章・6章の内容を整理し、実際の執筆時に使いやすい考え方とチェック方法にまとめました。
(1)効果を言い切れないときの考え方
迷ったときは、「効果を伝えようとしていないか」「使用目的として説明できているか」を基準に考えると判断しやすくなります。
たとえば、次のような表現は比較的使いやすい例です。
「◯◯成分を配合し、乾燥による肌の乱れを防ぐことを目的とした処方・設計です。」
結果ではなく、設計意図やケアの方向性に言い換えることで、過度な表現を避けやすくなります。
(2)口コミ・体験談を使うときの注意点
口コミや体験談は読者の関心を集めやすい一方で、薬機法上のリスクも高くなりがちです。使用する場合は、次の点を意識しましょう。
- あくまで個人の感想として紹介する
- 効果を保証する書き方はしない
- Before/Afterで明確な変化を示さない
体験談は「結果」ではなく、「使用感」や「使い続けやすさ」に焦点を当てると安全です。
(3)入稿前に確認したいチェックリスト
記事を書き終えたら、入稿前に次のポイントを確認すると安心です。
- 医薬品的な効能を連想させる表現になっていないか
- 効果を断定している箇所がないか
- 読者に過度な期待を与える書き方になっていないか
迷う表現があれば、断定を避け、使用目的やケアの位置づけに戻すのが基本的な調整方法です。
6. まとめ:薬機法に配慮しながら読みやすい美容記事を書くために
薬機法は、読者の誤解を防ぐための大切な基準です。禁止表現を理解し、言い換えの考え方を身につけておくことで、安心感のある美容記事につながります。
ルールに縛られすぎず、「読者にどう伝わるか」という視点を忘れずに書くことが、美容ライターにとっての大切な姿勢といえるでしょう。
参考文献
- 厚生労働省「医薬品等適正広告基準」
https://www.mhlw.go.jp/ - 厚生労働省「医薬品医療機器等法(薬機法)」
https://www.mhlw.go.jp/ - 消費者庁「景品表示法」
https://www.caa.go.jp/policies/policy/representation/fair_labeling/ - 消費者庁「健康食品表示ガイドライン」
https://www.caa.go.jp/policies/policy/food_labeling/ - 総務省「インターネット上の広告表示に関する指針」
https://www.soumu.go.jp/ - 厚生労働省「医療広告ガイドライン」
https://www.mhlw.go.jp/ - 日本化粧品工業連合会「化粧品の適正広告ガイドライン」
https://www.jcia.org/ - 特許庁「商標・広告表示の基礎知識」
https://www.jpo.go.jp/ - 内閣府「消費者政策資料」
https://www.cao.go.jp/ - 日本エステティック振興協議会「広告に関するガイドライン」
https://www.esthe-jepa.jp/ - 医薬品医療機器総合機構(PMDA)
https://www.pmda.go.jp/ - 日本皮膚科学会「ガイドライン一覧」
https://www.dermatol.or.jp/ - 国立健康・栄養研究所「健康食品情報」
https://hfnet.nibiohn.go.jp/ - WIPO(世界知的所有権機関)商標データベース
https://www.wipo.int/ - WHO「化粧品成分・規制関連資料」
https://www.who.int/ - 『美容皮膚科学(医学書院)』
NDL書誌:https://ndlsearch.ndl.go.jp/ - 『化粧品の科学(丸善出版)』
NDL書誌:https://ndlsearch.ndl.go.jp/ - 『コスメティックサイエンスの事典』
NDL書誌:https://ndlsearch.ndl.go.jp/ - PubMed(医学・科学論文データベース)
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/ - Google Scholar(専門文献検索)
https://scholar.google.com/
美容ライター&コンテンツディレクター。スキンケア・コスメ・美容医療のメディア運営や記事制作を中心に活動中。
日本化粧品検定1級(コスメコンシェルジュ)/化粧品成分検定1級(化粧品成分上級スペシャリスト)


